毎年10月〜2月は牡蠣の美味しい時期でもあり、ノロウイルスも流行する季節です。
ノロウイルスは人体へどのような経路で襲ってくるのか。牡蠣の安全な食し方は?
この問題は未だ曖昧な点があり、モヤモヤぼかされたまま今日に至ります。なぜ曖昧にされたままなのでしょうか。食文化と衛生科学が未だに交わらない理由とは?
凶悪なノロウイルスから防衛するにはどうしたらいいのか。
今回は自然の循環も考えさせられるこの問題を解説していきます。
_φ(・_・ もくじ
牡蠣とノロウイルスの関係
毎年毎年ノロウイルスの流行があり、牡蠣による食中毒のニュースはなくなりません。
人々が気をつけていて毎年ニュースに登場するノロウイルス。
いくら強いウイルスでもこいつは加熱で死滅するので全ての牡蠣を加熱調理すれば大丈夫なのですがそう単純な問題ではありません。
ここで早速結論が出てしまいましたが、「牡蠣全加熱で解決」なのです。
ノロウイルスが巡るルート
まず明確に言えるのが「循環ルート上では牡蠣がウイルスの媒介者である」ということ。
牡蠣は植物プランクトンを食べるので陸地に近いところで養殖されており、〇〇湾みたいに水流が溜まるような地形が適しています。もちろん外洋でも養殖されていますが、餌となる植物プランクトンが少ないので牡蠣の味が落ちるとされています。
ノロウイルスは海中で生き続け、植物プランクトンと一緒に牡蠣に食べられ内臓に溜まっていきます。
そして食卓へ。。。
そこから不十分な加熱や生食によって人体内に入り、腸管で増殖します。その後トイレに排出→下水処理場→海という流れで、また牡蠣に入るのです。
これは人間の腸内で培養しているようなものです。私たちはノロウイルスに利用されているのです。ノロさんは人間の腸内でのみ増殖します。
もちろん他の生物にも入ります。あさりなんかは陸地近くの砂浜に生息しているのでノロウイルスを持っている可能性は高いですが、基本的に加熱して食べるのもなので大丈夫なんですよ。牡蠣は生食文化のある二枚貝なのでそこがこの問題が解決しないポイントなのです。
ノロウイルスが死滅する調理とは
ノロウイルスは加熱で死滅しますが、その基準は結構厳しいです。
中心温度85〜90度で90秒以上加熱
そして年々基準値が上がっていますね。昔は中心温度75度で1分でした。
牡蠣は体が大きく厚みもありますので中心温度が85度になり、それを90秒以上キープするのですからかなり「十分に加熱」しなくてはいけません。
例えば「茹でる」のはMAX温度が100度なので内部の温度が上がるまで時間がかかりますね。時間がかかってしまうと周囲から水分が抜けてだんだん硬くなりなっていくのでノロウイルスが死滅する頃には牡蠣自身は小さく縮んでしまっていることでしょう。ここはやはり油で揚げる調理が一番適していますね。そうですカキフライです。
高温の油に全体をつけて加熱するので全面から一気に温度が上がります。それにパン粉という衣が牡蠣を守ってくれるので縮みも最小限ですみます。オススメです。
牡蠣の生食用と加熱調理用の違い
牡蠣には大きく分けて2種類あります。ここではその定義を解説していきます。
加熱調理用の牡蠣
これは採ってむき身にして出荷されたり、産地でよくある「牡蠣小屋」なんかで殻ごと出されるやつですね。明確な規定はなく、まあ牡蠣そのものっていう感じです。前述した加熱方法で安全に食べてください。
牡蠣の内臓にはノロウイルスが蓄積されている可能性が高いので生食はできません。
ちなみに産地直送以外の流通ルートでは加熱調理用の殻付き牡蠣は出回っているのは見た事がありません。飲食店で扱われている殻付き牡蠣は概ね生食用です。
生食用の牡蠣
これは実は何種類かに分かれいます。ここでは主な2種類を解説します。
きれいな海域で養殖されたもの
もともとノロウイルスがいない海域で養殖されたものですが、陸地に近いところではなく遠い場所または下水処理場からの水流が影響しない海域ということになります。
前者は植物プランクトンが少ないので味が悪いとされていて、生食用だけどわりと安価な商品です。後者は牡蠣の味には関係なさそうですね。生食用の表示がある牡蠣は「採取海域」の表示が義務付けられているんですがあまり見ませんよね💦見ても地理に疎かったらまるでわかりませんものね。でも今後はちょっと気にして「採取海域表示」を見たらgoogleMAPで検索してみてはいかがでしょうか。
採った後、処理を行っているもの
生食用牡蠣として流通しているもののほとんどがこの方法と採用しています。
採取後に紫外線殺菌海水に数時間さらして体内のウイルスを減菌させる方法です。ウイルスを減らすんです。無くすじゃなくて減らす!100%なくすわけではありません。殺菌海水と言ってもノロウイルスが0ではありません。100%安全ではありません。でも「100%安全というわけではありません」という表記をする義務はありません。
これなんですよ。これです。これが原因なんです。
この方法だと不完全なのです。その証拠に出荷基準値が「〇〇以下」みたいになっていて0ではないからなのです。
一旦海に出て牡蠣に入ったノロさんは牡蠣自身が生食用として殺菌海水処理されている間も完全に0にはならずに残った状態の個体が全体の何%かはいるということです。
これは日本だけの問題ではなく、牡蠣の生食が盛んなヨーロッパでも同じようなことが起こっています。
- 採取海域や減菌処理によって分類されている
- 減菌処理は牡蠣のウイルス保持数を基準値以下にする事が目的
- ウイルスはゼロにはならない
- 絶対安全は確立されていない
ここまでの僕のまとめ
厚労省や採取地域の自治体の基準では「一定数以下」で生食用として流通させる事ができるという決まりになっています。絶対安全な生食用牡蠣はほぼ存在しないと言っても過言ではありません。自然の中に生きている食材ですので何かしらの微生物や菌は付着しています。ゼロにするのはそもそも不可能なのです。
ですが、ノロウイルスは非常に感染力が強いのが特徴で、牡蠣から人への感染よりももっと深刻なのが人から人への感染です。
平成18年のノロウイルス食中毒は、事件数499件、患者数27,616名(平成17
平成19年10月12日、薬事・食品衛生審議会食中毒部会からの提言
年と比較して、事件数が 225 件、患者数が 18,889 名増)であった。その内、患 者数が 500 名以上の事例は、6 件(5,118 名)であり、都道府県等からの報告に よると、発生原因については、すべての事例においてノロウイルスに感染した調 理従事者等が汚染源と推察されている。
こちらの報告書によると平成18年度のノロウイルス食中毒の全ての事例で人から人への感染と推察されています。牡蠣からの直接感染での食中毒事例はないのです。
おや?へんですね。
牡蠣からの感染で食中毒がないのならなぜノロウイルスはどうやって私たちの生活を襲ってくるのでしょうか。
どこかで誰かが「牡蠣から感染して、そこから全国へ広まっている」のです。
だから牡蠣の加熱と生食は本当に気をつけないといけないと思います。
ちょこコラ:「自己責任論」
自己責任論
「自己責任で食べる」という全くもって無責任な行為も問題です。ノロウイルスは人から人への感染力が非常に強いウイルスですので、自分だけが感染するのならまだいいのですがその人の家族や発症前後に関わった人たち全てに感染の危険性が出てきます。
ノロウイルスの感染拡大を防ぐには、牡蠣から人の一次感染を過熱により防ぎ、人から人への二次感染も防がないといけません。目に見えないウイルスが対象なだけに本当に難しい問題なのです。
そして飲食店で出される生牡蠣は「100%安全なわけではない」とみんなが思っていませんよね。「多分ちゃんとしたやつだから大丈夫」みたいに思ってますよね。
これも自己責任論で片づけられるでしょうか。
産業の保護と食文化の維持
全国各地にはその土地の郷土料理や独自の食文化があります。
昔はある程度クリーンだった環境も近代化と共にだんだん変わってきています。「昔は海は綺麗だった」などとよく言いますがまさにその通りなのです。僕の母の話なのですが、子供の頃に海に入ったら足にすぐ貝があたるほどたくさんいて、そのまま裸足で挟んでとってそこで開けて食べてたそうです。
今も水質はそれほど悪いとは思いませんが、昔はもっと綺麗だったと思います。昔の食文化は今よりも質素でシンプルだったと思いますので、生活排水の汚染は少なかったはずです。
国は食文化には切り込めない
海の幸がクリーンに生きていた時代、まさに牡蠣は生食され味や栄養価に優れた食材として注目されます。そしてそれを養殖し販売する産業が発達していきます。時代は流れ、食文化だけが残り牡蠣は汚染されているのが残念ながら現状なのです。
もし、牡蠣の生食を国が禁じたらどうなるでしょうか?牡蠣産業で潤ってきた地域や漁師は反発するでしょうね。危険度が高いとわかっていながらもなかなか踏み切れないのではないでしょうか。現在保健所では牡蠣は加熱して食べるようにとしか指導していません。
地域の食文化にまで口出しできないのが現状ですね。でも牡蠣漁師はこぞって「地元で牡蠣であたった人は見たことがない」と言います。TVでもレポーターが牡蠣筏で牡蠣を剥いて頬張るシーンが放映されています。
東京都の対応(主張)
東京都では生食用牡蠣を扱うには各区での認可が必要です。と言っても
- 必要分だけ仕入れて翌日に余らせないようにする
- 期限内に使う
などという当たり前なことを審査して認定シールがもらえるだけの表面的な薄っぺらい取り組みをしています。そもそもの感染経路や感染理由がわかっていてもアンタッチャブルなんです。はっきり言って効力なしの単なるやってますアピールです。
ついでに:鶏の生食
また同じように九州地方での食文化に「鶏肉の生食」があります。現在の食中毒原因のトップをひた走る「カンピロバクター」は鶏肉の生食が源となっています。これも牡蠣と同じような現象なのではないでしょうか。
焼き鳥屋さんで鶏の刺身を出してるところありますよね?皆さんはそれを自己責任で食べていますか?焼き鳥屋さんは「お客様が自己責任で食べているんだ」と主張していますか?刺身でなくても焼いていても中はレアなキモを食べていませんか?
加熱が不十分だったり生食した場合、ノロウイルスやカンピロバクターは人体に入ると爆発的に増え高確率で食虫毒を起こします。症状は発熱、下痢、嘔吐、腹痛といった腸炎のような感じですね。体が凶悪な菌やウイルスをどうにか体外へ排出しようとするのでこのような重い症状になります。個人差はありますが3~4日はベッドとトイレの往復になります。
3〜4日と体力を棒に振ってまで「自己責任」で生食しますか?
新鮮だから大丈夫って思いますか?大腸菌やウイルスなので鮮度は関係ありません。よっぽど室温に長時間放置した場合は別ですけどね。食中毒に関してはまた別記事でやりましょうか。ネット上には確定情報は散らばっているんですがね。
実は末端提供者が罪になる
このように感染の危険性がある食材は普通に流通しています。
私たちはそれを買う事ができ、自由な調理で食べる事ができます。生食するのも自由です。
ただ、ここで問題なのが飲食店やスーパーなのです。
生食可能な食材を飲食店が仕入れて客に提供するのは「飲食店に責任がある」のです。
生食用として売られている牡蠣を仕入れ、生食として提供し、それが原因で食中毒になったら提供者の責任になります。実際、生牡蠣の調理は料理人の手がほとんど介入しない料理?です。ある意味横流ししているだけなのですがそれでも提供者の責任になります。
もう一つ付け加えると、食材起因の食中毒だけではなく、人が原因の食中毒も提供店舗の責任になります。
「あの店が食中毒を出した」と言っても食材起因のものは平成18年度は確認されていないのです。
まとめ
今回は異色
ちゃんと発信してるところが少ないのでずっとなんとか記事にしたっかった内容です。
最後は問いかけばかりになってすみません。
安易に自己責任とか、美味しいからとか、新鮮やからとか
そういうことに振り回されずに
食の安全や食文化をもう一度考えたいなと思いました。
食中毒はなってしまったら本当にしんどいし、私生活や仕事にも影響します。少しでも食中毒が減らせられたらと思い記事にしました。
今回もありがとうございました!