今回は低温調理機を使った安全なコンフィを追究しました。目指すは「安全」と「美味しさ」の両立です。
使用食材によって加熱温度と時間は異なりますが今回は
- 鴨の砂肝
- 鴨の心臓(以下「ハツ」)
を使って温前菜を作ります。
*パスチャライズ(低温殺菌)と書きましたが、砂肝は通常の低温調理では仕上がりが硬すぎました。今回は柔らかくするために高温で長時間加熱しましたので、低温殺菌ではなくなりました。
この2種類の部位は全く異なる性質を持っており、適切な加熱温度はもちろん同じではありません。
最高の食感を得るため、また安全に美味しく調理する方法を模索しここに記します。
_φ(・_・ もくじ
低温調理機を使った砂肝とハツのコンフィ
今回使用したものは「鶏」ではなく「鴨」の内臓。
ミュラー種の鴨ですが、一般的な鶏の内臓と比べても明らかに大きくてしっかりしています。
まずソテーして味見しましたが、旨味が強いですね。とても調理のしがいがありました。
こと砂肝においてはかなりしっかりした歯応えでしたので、コンフィという調理法が適しているなあと確信しました。
ですので今回は
- 砂肝は長時間加熱で柔らかく
- ハツは低温調理でジューシーに
仕上げることを目標とします。
油脂に素材を浸し、揚げ物にするよりも低い温度でゆっくりと加熱して調理する。
wikipedia「コンフィ」より
もともとこのような加熱方法ですが、これはあくまでも昔の話。
現在では油脂に浸すことは「油脂の香りをつけながら加熱したい」場合にのみ適応されます。
なので、液体の中で食材自身の水分を保持しながら低い温度で加熱する方法を指します。
砂肝とハツの下処理
それでは調理工程を解説していきます。
内臓ですので「大腸菌」がたくさんついていることを前提として作業していってください。
食中毒で怖いのは2次汚染です。
砂肝の下処理
砂肝は「白く太い筋」と「下面の皮」に3面を覆われています。
「白く太い筋」は加熱するとかなり硬くなるので必ず取り除きます。
「下面の皮」は比較的柔らかいのですが、本体部分とは別の物質ですので『食感を気にする人』は取り除いてください。
今回は写真のように砂肝のぐるりを切り取りました。
ちなみに切り取った筋は、揚げたりソテーしたりして歯応えのあるおつまみにすることができます。
ハツの下処理
ハツは脂と太い血管を切り落とし、真ん中に固まった血液があるので開いて取り除きます。
上部についている脂は落とさずに旨味として残しておくこともありますので、今回は残すようにカットしました。
*余談ですが、牛肉の場合もですが、内臓の脂と肉の脂はなぜか性質が異なり、
私は内臓の脂の方がサラッとしていて、香りも良いと感じています。
開いた後はこのような形になります。
開いた後は固まった血液を容易に取り除くことができます。
この後、どちらも1%塩分の冷水につけて血抜き&下味付けをします。
1日冷蔵庫で保管すれば良いでしょう。
鴨の内臓はしっかりと鉄分が感じられる風味だったので、短時間で終わらせて肉肉しさを活かした仕立ても良いかもしれませんね。
低温調理機にかける前の準備
血抜きされた内臓をよく拭いて、袋に入れていきます。
ジップロックでももちろん良いのですが、私が使っているのは福助工業のフクレックスNO12です。
これは超安価で極薄しなやか。袋内の空気の排出も楽々で、食材への熱伝導も良好です。
何より本当に安い!ありがとうございます福助さん!
袋内に入れるものは
- 内臓
- 刻んだニンニク
- 鴨脂(グレスドワ)
砂肝とハツは加熱温度と時間が異なるので、別々の袋に入れましょう。
鴨脂(グレスドワ)は風味がグッと良くなるのでぜひ入れたいところ。鴨の香りがついてより鴨の内臓感が強調されます。
今回は鴨の内臓ですが、鶏の内臓でやる場合もグレスドワは有効です。
写真は真空放送機で真空パックしていますが、家庭でやる場合は水につけたりして中の空気を追い出す方法で構いません。
フクレックスだとしなやかなので、空気の追い出しがとてもスムーズにできます。
空気は熱伝導率がめちゃ悪いので、できるだけ排除しましょう。
砂肝とハツを低温調理する
- 砂肝・・・90℃/3時間
- ハツ・・・58℃/2時間
ハツはきっちりパスチャライズします!
砂肝もはじめは2時間で味見してみたんですが、まだ硬くて。。。もう1時間追加しました。
かなり縮みますが仕方ありません。
これが鶏の砂肝(小さめ)ならハツと同じ時間やっても問題ないでしょう。
鴨の砂肝はそれだけ大きくてしっかりした食感なのです。
対してハツはこの温度で2時間の加熱でしっかりとパスチャライズでき、しっとりと仕上がります。
砂肝同様、鴨のハツも大きくて食べ応えがあるので、低温調理にとても向いている食材だと言えます。
ハツは味もよく、今後は砂肝なしでハツだけで料理した方がいいなと思ったくらいです。
ちなみに鶏肉の食中毒でダントツトップが「カンピロバクター」ですが、カンピロバクターはサルモネラ菌よりも死滅する加熱温度と保持時間が低く、今回も「サルモネラ菌の死滅する温度と保持時間」を実行しています。
仕上げの調理
低温調理が終わってもそのまま食べるのでは一味たりません。
なぜなら、高温で加熱されていないのでメイラード反応が起こっていないからです。
なので低温調理が終わったら必ず表面を高温で焼成しましょう。
- 低温調理した食材の表面の水分を拭き取る
- 高温のフライパン+油で食材の表面を焼成
- しっかりとメイラード反応させたら出来上がり
水分を拭き取っていないと、メイラード反応の妨げになりますので必ず拭き取るようにしましょう。
また、高温の油で焼きますので「油はねの原因」となって非常に危険です。気をつけて調理してください。
表面の焼成
低温調理の際にもニンニクを使用していますが、ここでも再度ニンニクが登場します。
低温調理は文字通り低温の加熱ですので、ニンニクがメイラード反応して出てくる良い香りはついていません。
そこで仕上げにニンニクをメイラード反応させて香りを立たせた油で焼くことで、食材にニンニクの良い香りがつくことになります。
香り成分は重ねていくことで複雑になり、より食べ応えがでますし、料理に奥行きを与えます。
今回はローズマリーも加えて香り高く仕上げます。
砂肝は全面を、ハツは片面(外側)を焼成します。
高温にさらされるので、もちろん加熱面の水分は失われ硬くなりますが、
そこが狙いです。食感のコントラストが生まれて単調な低温調理がまさに本物の料理になります。
内部はすでに均一に加熱されているので表面に色がつけば完成です。
仕立てによってはこの後、焼き油を拭き取り盛り付けに入ります。
今回はきゅうりと甘夏のマリネを付け合わせとして、温度差も楽しめるようにしました。
きゅうりは叩いて軽く塩をして脱水しておきます。
水分を拭き取り、ホワイトバルサミコとオリーブオイル、甘夏のフィレを入れ混ぜて出来上がりです。
甘夏のわずかな苦味、きゅうりの清涼感などが単調な内臓料理というイメージからの脱却を促します。
実際、水分感は肉部にはかなり残っていますので、付け合わせにはそれ以上の水分があった方がバランスが良いという判断でこのようにしました。
また作った季節が初夏だったので、季節感も取り入れたというわけです。
これが寒い時期なら、生の根菜や白菜といった冬イメージの料理に仕立てます。
今回はビールや白ワインでといったところですね。
低温調理機は工夫次第で様々な料理が作れますが、機構がシンプルなので単調になりがちです。
もう一手間を最後に加えることでさらにクオリティが上がります。
あくまでも1例ですが、参考になれば嬉しいです。