今回は低温調理機を使うんだけど「低温調理しない」のです。
でも低温調理機を使うことで効率よく劇的に美味しいステーキを素早く焼くことができます。
厚みのあるステーキ肉であっても加熱工程がイージーになり、仕上がりも安定します。
*極端に薄い肉の場合は逆効果になりますお気をつけください。
_φ(・_・ もくじ
厚みのあるステーキ肉を焼くための事前準備
さてどの段階から説明するのがいいでしょうか。
- 購入方法?
- 肉の部位の選定基準?
今回は手っ取り早くするために上記は飛ばします。
また後日に別記事で説明しようと思います。
なので今回はすでにお肉がお家の冷蔵庫に入っている状態からのスタートです。
事前準備:半日〜1日前
カットして塩を振っておく
一体調理のどのくらい前に塩を振っておくと良いかというと、前日または買った日にやっておくと良いでしょう。
塩をふるタイミングは人それぞれ主張があり、異なった意見が飛び交っています。
僕のやり方はかなり異質ですが、僕は業者さんから肉が届いたらこのような工程を踏んでいます。
- 到着日・・肉全体の温度を下げるため冷蔵庫で一晩保管(配送時の温度が少し高い場合がある)
- 次の日・・筋や脂を除去、1人前カットして、塩をふり冷蔵庫へ
ちなみに冷蔵庫の設定温度は3℃です。肉は1度保管が望ましいとされていますが同じ冷蔵庫に野菜も入っているので3℃です。できるだけ低い温度に設定しておくのが良いでしょう。早く調理するなら温度はシビアに考えなくても良いでしょう。
肉を保管する冷蔵庫の温度ですが焼肉屋さんに聞いたところ『1度』という意見が大かったので参考にしようと思い、氷温の冷蔵庫に保管する場合もありますが10kgほどの塊肉だと入らないんですよ。
1人前ずつにカットした後は氷温保管しています。
ですが、シェフによっては面白い考え方の人がいて
*加熱前日に「ワインセラー(16℃前後)で保管」:cainoya塩澤シェフ自身のInstagramより
なんていう方もいらっしゃいます。
前日から16度で加熱しているようなイメージでしょうか??
また、hajime米田シェフは夜のお客様のステーキを昼から室温に出しておいて「室温(23℃くらい)でじわじわ加熱する」そうですよ。:NHKプロフェッショナル仕事の流儀より
なんともロマンなお肉を焼く世界。。
ここをクローズアップしてみても肉を焼く、保管する温度っていうのはかなり重要なことがわかりますね。
話を塩に戻しましょう。
一般的に肉を焼く直前に塩をふるのが方程式のように知られていますが、
厚みのある肉の場合、直前に振った場合だと表面だけに塩がついていますので内部は塩味0%状態です。
これをよしとするか、ダメだとするかなのですが
僕は肉の内部も美味しく味わっていただきたいので「焼く当日に塩はふりません」「当日に塩をふった肉は調理しない」のです。
マリネは1日で1cmくらい内部に浸透していきますので、塩もそんな感じだと思います。
とがった塩味ではなく、肉と塩が一体化した味わいを目標としています。
厚みのある肉の場合は特にその辺をしっかりとデザインする必要があります。
事前準備:調理直前
低温調理機を使う
さて調理直前です。肉はまだ冷蔵庫に保管されたままですね。
ここでも一般論が邪魔してきますが、猫も杓子も「室温に30分出しておく」というのを聞いたことがないでしょうか?
根拠は、冷蔵庫の温度よりも最終加熱終了温度に少しでも近づけるための行為であることは明白ですが
肉の厚みや季節、キッチンの環境によって条件が変わってきます。
仮に毎回同じ肉の部位を焼くのならば確実に結果は変わってきますね。
さあ、ここで登場するのが低温調理機です。
これを使って「プレヒート」を行います。
低温調理機を使って肉をプレヒートする
要するに「室温に出しておく」というのがアバウトなので低温調理機の特性を利用して「本加熱前のプレヒート」を効率的に行うということです。
低温調理機は「水」を温めて食材を間接的に加熱する器具というのは皆さんご存知ですよね?
「水の沸点は100℃」なので水の常温(10〜18℃)から沸騰直前までの温度帯を自由に設定できて、しかもその温度をキープしてくれる機械です。
低温調理機を使ったことがある人はわかると思いますが、熱のまわり方にスピード感がありますよね!
プレヒートの温度設定
肉の目標温度は種類や部位によって変わりますが、一番気をつけないといけないのが「厚さ」です。
実際に焼く時のコンロの火の大きさにもよりますが、プレヒートの温度は35℃くらいから始めてみることをお勧めします。
低温調理機を35℃に設定すると、水温は35.5℃以上にはなりません。
これはプレヒートの時間を気にしなくても良いということです。わかりますか?
プロの料理人のように調理時間にシビアな状況でも、いわばほったらかし的にプレヒートできるので
- 複数種類のオーダーが入る
- 肉をプレヒートし始める
- 前菜などを作る、パスタなどを作る
- プレヒートされた肉を調理する
このように効率的に進めることができます。
もっというと冷凍状態からのプレヒートで「解凍➡︎35℃」にできますので、冷凍保存した肉をそのままオーダーに使えるのでロスもなくすことができます。
家庭でも冷凍保存肉をこのように低温調理機を使うと、味噌汁の用意をしている間に「解凍➡︎35℃プレヒート」することができます。
話を戻します。
実際に部位によってどのように時間の差があるのかを、ざっくりですが説明しておきます。
- サシのある牛肉や脂が網目状の豚方ロース肉などは、温度が上がる時間が早い
- 脂の入ってない赤身肉は温度が上がるのがゆっくり
プレヒート35℃から56℃にするのとではどちらが簡単かわかりますね!
低温調理機でプレヒートした肉を焼くとどうなるのか?
さあいよいよ焼成です。と言ってもフライパンで両面焼くだけですけどね。
プレヒートによってきちんと内部温度が上がっていると、加熱時間が短縮され目的温度により近くなります。
肉の厚みによって焼き方は変わってきますが、3cmほどの厚さの場合はこのように焼くのがお勧めです。
- 弱火
- 1分毎に裏返す
- 15分間くらい
この焼き方だと両面からじわじわ熱を入れていくのでムラのない焼き方になります。
後に解説しますが、プレヒートなしで焼くことで断面をグラデーションにして食感の変化をつけることもできます。
肉の厚さが1cmくらいだと、高温のフライパンで一気に焼くと良いでしょう。
これで低温調理機を使ったプレヒートの解説は一旦終了です。
初心者の方はここまでで良いでしょう。
ここからは上級者向けの内容です。
どのような断面がお望みですか?
ここでは目的の仕上がりに応じてプレヒートの温度と焼成工程を変更して、よりリアルに食感をコントロールできるという話をしましょう。
低温調理機は文字通り低温調理する機械ですが、低温ローストした場合の肉の断面はどのようになるでしょうか?
低温調理機を使えば5cmほどの厚みのある肉でも均一な火入れができます。これは皆さんご存知ですよね?
ではこの均一仕上がりなお肉はどのような食感なのでしょうか?
それはまさにミディアムレアだらけ!どこをどう食べても柔らかくジューシーです。
固まりのロースト肉をカットする時の気分の高揚感も演出できますね。
低温調理機はこのような均一仕上げにおいて最大の成果を出してくれます。しかしその逆を考えると、
- 全部同じ食感なので飽きる
というデメリットがありますね。
それでは、こちらの写真をご覧ください⬇︎
これはプレヒートなしフライパンのみで焼いたものですが、このように断面がグラデーションになっています。
これはどのような食感かと言いますと、
- 外側は過加熱状態なので水分が抜け、しっかりとした歯応えがある
- 内側に向かって目標温度に近づいていく
- 内部の食感と外部の食感は違う
ここで重要なことは「内部と外部の食感が違う」ということです。これが低温調理機では出すことができない「食感の差」なのです。
この食感の差が生まれると食べ手はどのように感じるでしょうか?
外側ががっしり固く、内部はジューシー
からあげや天ぷらなどの揚げ物に代表される美味しさの表現の一つに
「外はカリッと、中はジューシー」という外と内でのコントラストを表現した一文がありますね。
このステーキという料理の中にも「食感のコントラスト」を表現するとどうなるでしょうか?
揚げ物の場合は衣と具材の両方が引き立て合うように表現されますが、ステーキの場合は
内部のジューシーさがより感じられるようになります。
これはぜひ試していただきたい!本当に!
意図的にグラデーションを出すことで内部の柔らかさや、肉の美味しさを伝えることができます。料理の幅が広がりますね!
肉の部位、厚みなどによって目的の仕上げをいろいろ変えて楽しんでみましょう。
しかし上の写真のようなグラデーションをフライパンによる焼成だけでするのが難しいと思っている方は、プレヒートを使ってイージーに再現してみましょう。
プレヒート後に意図的にグラデーションさせる焼成方法
では具体的にどのような工程で作業すればいいのかを解説します。
これには前提として3cm程度の肉の厚みが必要になりますね。
まずプレヒートの温度ですが43〜45℃に設定して十分に内部温度が上がるまでプレヒートします。
フライパンでの焼成は「油多め」「高温」で行います。
強火の状態では内部まで熱が伝わる前に表面が焼き終わってしまうのですが、しっかりと内部温度を上げておくことで安心して強火で焼くことができます。
高温を肉の表面から伝えていきますが、内部まで到達する前に加熱は終わるはずですので
表面ががっしりと焼き色をつけて、その後に少し休ませるときれいなグラデーションになります。
*もしうまくいかない場合は焼成時の火加減をしてみてください
このように低温調理機は低温ローストだけでなく、日々の料理の時短や料理のグレードアップにも使える優れものなのです。
分厚いステーキを簡単に最高の状態で作ることができますのでぜひトライしてみてください。
また低温調理機を持っていない方はこの機会にぜひ。検討する価値は十分にあります。
特に食感のデザインにも活用できるとなれば鬼に金棒ですね。